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支援者支援のスペシャリスト 山田由美子さん

プロフェッショナルアドバイス

メンタルマネジメントの最前線で活躍する専門家へインタビュー。うつ病を抱えながら働く人のためにプロならではのノウハウをアドバイスしてもらう。


第3回:支援者支援のスペシャリスト 山田由美子さん

『比べるなら、他人ではなく過去の自分と』

 

 
~うつ病を抱えながら働く人へのアドバイス~
 
メンタルヘルスのプロにインタビュー。
 
うつ病を抱えながら働く人のために、
現実的で役に立つ習慣やノウハウを教えてもらうこのコーナー。

多くのうつ病患者と接し、
現場を知るプロフェッショナルだからこそできるアドバイス。

第三回目は、知的障害、自閉症の方の支援者支援をおこなうの山田由美子さんにお話をうかがいました。


-うつワーカーのノウハウ情報局(以下、情報局)
まず支援者支援という言葉、
あまり聞き慣れないのですが、
どういったものなのでしょうか?
 
 
-山田由美子さん(以下、山田)
私は、もともと知的障害者や自閉症の方の支援職員をしていたんですね。
そういった支援者と呼ばれる方はたくさんいるんです。
でも、支援者を支援する人がいないんですね。
そこで色々な問題を抱えることになってしまう。
 
 
-情報局
具体的には?
 
 
-山田
例えば上司が積極的に
何か教えてくれる風潮がない。
だからスキルがあがらない。
解決できないことが増えて病気にもなる。
うつにもなる。
そして辞める、という感じです。
すると新しい担当者がご本人
(知的障害者や自閉症の方)への
支援をまた一からやり直すことになるわけです。
これってご本人にとって負担だし悪影響ですよね。
 
 
-情報局
つまり、支援者支援は、
最後はエンドユーザーのためにということ?
 
 
-山田
目的はそこです。
エンドユーザーであるご本人を幸せにするということです。
 
 
-情報局
そのような事業を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
 
 
-山田
支援職員だった時、施設長を任されることになったんですね。
でも利用者さんといるのが好きだったので断ったんです。
でも夫に、支援職員のままなら
1日10人しか支援できないけど、
10人の職員を育てたら100人に支援できるでしょって言われて。
夫にとって最初で最後の名言でしたね(笑)
 

 
-情報局
そこで施設長の職を受けた?
 
 
-山田
はい。
100人の利用者に私の考える福祉を提供できるなと思って。
そうしたら支援者側からの相談が入り始めたんです。
それでブログやHPを立ち上げて。
これは事業になるなって。
ある事情で施設もやめて、
個人事業として障害者のご家族や、
職員の相談を受けるようになっていきました。
 
 
-情報局
それが支援者支援事業になっていったんですね。
 
 
-山田
そうですね。
ご家族と支援者というのは違うものという考え方の人もいます。
相容れないところもあるのですが、
うちの法人は両方とも支援者と定義しています。
 
 
-情報局
なるほど。
そういったご家族や支援者の方に、
具体的にはどのようなメンタルケアをされているのでしょうか?
 
 
-山田
今は、毎日(イラストとコメントを書いた)カードをFacebookに出していますね。
私はあと10年くらいしかやれそうにないんです(笑)
だから、私がいなくても元気を出してもらえるためにはどうしたらいいかな、と考えて。
福祉に関係ない人も、そのカードを見て元気になりましたって言ってくれます。
 

 
-情報局
確かにあのカードは心に響きますよね。
直接メンタルケアをされることはないのですか?
 
 
-山田
セミナーやコーチングをしています。
セミナー自体にもコーチングを取り入れていますね。
その反響が良くて、元気になりましたって言ってもらえます。
セミナー中に、100人いれば
できるだけ100人全員と話すようにしています。
エンドユーザーのところまで声を届けるためには
やっぱり手法を持って帰ってもらう必要がありますからね。
私は、理路整然とした話、法律の話というのはできません。
ただ現場で利用者と実際に接して学んだこと、それを広めているだけなんです。
 
 
-情報局
支援者の方の中で、
うつ病になりやすい傾向というのはありますか?
 
 
-山田
やっぱり真面目。
自分がどうにかしなきゃいけない。
自分が悪い。
自分がやらなきゃけないって考えてしまう。
休めって言っても、あの仕事があるからって、残業する。
 
 
-情報局
具体的にはどんな問題が起こるのでしょう?
 
 
-山田
真面目だから上司とぶつかるんです。
そして、
「山田さんはどう思いますか?」って
自分が正しいか確認にしくる。
あなたはどう思うのって聞くことで、
自分で考えるようにはなっていくんですが…。
時々仕事に来られなくなったりするので、
休めばといっても休まず頑張ってしまう。
そういうことを繰り返すんですね。
最後には自傷をしてしまったり。
満員電車に乗れなくなった人もいました。
でも、そういう人って真面目なので
『いい支援』をする人なんですよね。
 
 
-情報局
『いい支援』・・・。
すごくいい言葉ですね。
そういう真面目な支援者の方が、
これだけは続けた方がいいという習慣はありますか?
 
 
-山田
「くらべるなら、過去の自分と」、と考えることです。
やさしいから、迷惑かけちゃいけない、
もっと頑張らなきゃってなりやすいんですね。
他の人に迷惑かけてるって思い込んでるんです。
自分の中で成長していることに気づけない。
だから、今の自分でいい、
今の状況でいいんじゃないって考えて欲しいですね。
利用者の人にも影響してしまいますから。
 
 
 
-情報局
では逆に、これはやめておきなさいという習慣はありますか?
 
 
-山田
簡単に言うと残業です。
つまり100%を目指さないことかな。
80%でいいんじゃないの、ってことです。
利用者ご本人が「いい支援です」とは言ってくれませんからね。
不安にはなります。
でも、適度に手を抜く。
適当はダメですけど。
 
 
-情報局
うつ病の予防という観点からはどうでしょうか?
 
 
-山田
見方を変えることですね。
以前コーチングをした時、
旦那さんに離婚をされてトラウマになっていた人がいたんです。
その人はもともと、
結婚はしたくなかったけど娘は欲しかった。
だから言ったんです。
いい旦那さんだったってことだよね、
別れてくれて娘を残してくれたんだから、って。
そうしたらご本人もハッと気がついて、
トラウマが消えたって。
同席していた人たちも
みんな鳥肌立ったって言ってました。
 
 
-情報局
見方が変わったんですね。
 
 
-山田
そうです。
それが、元気がなくならないための予防。
ムダなエネルギー使わないための予防です。
あとは人と自分を切り離すことも大切です。
 
 
-情報局
というと?
 
 
-山田
よく知的障害者ご本人のお母さんに、
この子には私が死ぬ一日前に死んで欲しいとおっしゃる方がいるんです。
自分にしかできないって思いつめてしまうんですよね。
でも彼らの人生はお母さんの人生と別物。
それぞれの人生の課題があるんです。
 

山田さんの運営する施設「わとわ」で制作され販売されている作品


 
-情報局
なるほど、お母さんのお気持ちは当然のものですよね。
でも、ご本人のためには切り離して考えることも大切なんですね。
こういった深い相談をできる、
良い支援者支援事業者さんを見分けるポイントはありますか?
 
 
-山田
やはり人の話を聴いてくれること、
「話を聴くよ」っていってくれることですね。
でも、支援者支援と明言しているのが
今は私しかいないので(笑)
セルフマネジメントしてもらえるようになるといいですね。
 
 
-情報局
山田さんの活動を通して
支援者支援という分野が、
より多くの人に広まることを願っています。
今日は、ありがとうございます。
 
 
-山田
ありがとうございます。
 
 

●プロフィール
 

山田 由美子(やまだ ゆみこ)
特定非営利法人サポートひろがり代表。
30年以上に渡り知的障害者福祉に取り組む。
非常勤職員から施設長まで経験し、
最重度者から就労可能者まで幅広い障害レベルに対応。
障害者の真のニーズに応えることができる。
支援者支援への取り組みは約15年。
2003年から支援者向けに書いているブログはブログランキング1位。
記事の内容は、国立大学の入試問題にも採用された。
セミナーでは毎回名刺交換のための
行列ができる福祉業界きっての人気パフォーマー。
地域活動支援センターわとわを運営し、
障害者、支援者双方から絶大な信頼を得ている。
 
 
<撮影、文:うつワーカーのノウハウ情報局>
<場所:特定非営利法人サポートひろがり/地域活動支援センターわとわ>